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帰ってきた「MRのキモチ」

2016/04/11 UP

  • 連載第1回
    転職の度に会社の名前が消える男の物語

     A君は、今年でMR10年目を迎える、脂の乗り切ったMRである。昨年、第一子に恵まれ、これからは子供のためにも頑張らなくては、と思っているところである。

     ところが最近、どうも仕事に身が入らないと感じることが多くなった。営業成績は中の上というところで決して悪くはないのだが、なかなか仕事に対する満足感が得られない。こんなことでよいのかと、自問自答する毎日だ。それには、自分が勤める会社の名前が、あまりにもコロコロと変わることが影響しているような気がしてならない。

     10年前に就職したフランスの製薬会社は、入社して5年目にドイツの製薬会社と合併したが、そのとき不本意なリストラに遭った。夢と希望にあふれて入った会社で味わった、最初の蹉跌(さてつ)であった。

     その後、知り合いのつてを頼って米国の製薬会社に入社した。その会社は、米国とスウェーデンの会社が合併してできた会社で、社名には両社の名前を冠していた。ところが入社2年後に、米国の会社の名前が消えてスウェーデンの会社名に変更された。そして昨年、その会社が再び米国の大手製薬会社に統合されたことで、自分が親しんできた会社の名前はすべて消えてしまった。

     新入社員として最初の会社に入ったとき、営業本部長は「君たちがMRという仕事を選択したことは、人生における正しい選択である」と力強く語っていた。「MRには夢と希望がある」とも話してくれた。そしてMRのキャリアパスウェイも示してくれた。その言葉を信じて現在まで仕事に励んできたが、最近、MRという仕事の将来性に疑問を持つことが多くなった。

     周りを見渡してみると、いつしかMR時代の仕事ぶりが認められて本社の幹部になる人はほとんどいなくなった。にもかかわらず会社は、 MRに新しいキャリアパスウェイを示してくれるわけではない。MRは単なる「売り子」として使い捨てされている感じがしてならない。MRの悩みや相談を聞いてくれる上司も少なくなった。上司は顔を合わせると数字のことしか言わない。

     妻からは、「最近あなたは生き生きしていない」と言われる。自分が勤めている会社は、いつまで今の社名でいられるのであろうか。また会社の名前が変わり、リストラが行われるのではないか。このままMRを続けてよいものだろうか――。消えた社名とともにMRとしての働きがいまでもが失われたように感じられるA君の胸には、種々の疑問と不安が沸いてくるのである。

     ここで紹介したA君の物語は、フィクションではない。実話である。筆者は日頃から、勉強会などを通じて現場のMRとの対話を重ねているが、A君と同じような悩みや不安を抱えるMRが近年、急激に増えたと感じている。そして、なぜそうなったかを考えるとき、MRを管理・教育する立場の管理職や、それを束ねる経営者の姿勢に問題があるように思えてならない。

     確かに役員といえども、外資系企業の日本法人では、本社による合併の意思決定に参画する機会が与えられるケースはまれだ。社内での発表よりも新聞報道の方が早かった、というケースがあるかもしれない。しかし、それでも合併の目的がどこにあり、現場にどのような影響が及ぶかを、迅速かつ適切に伝えることは経営者や管理職の責務である。

     例えば、合併に伴う社名変更などの重要な事案では、社長なり営業本部長が全国から営業所長クラスの社員、あるいは全MRを一堂に集め、自ら語りかけることで社内の動揺を最小限に食い止め、新たな展望を描き出してみせる必要がある。米国でも、会社の重要な意思決定に関する情報伝達は、電子メールで済まさずにMRを集めて直接行うのが一般的だ。そうした情報伝達を実現できている企業が、今の日本にどの程度あるだろうか。

     一方で製薬会社の経営者や管理職には、MRが自分の仕事に夢を描けるようなシナリオを用意することも求められている。明治45年、東京府立巣鴨病院の薬局長から日本初のMRへと転じた二宮昌平が、その当時に抱いた感慨や崇高な志というものを、現代のMRはほとんど持っていない。アーサー・ヘイリーの小説『ストロング・メディスン』の主人公である女性MR、シーリアのように、大手製薬会社の社長にまで上り詰めようという野望にも近い夢を持っているMRも皆無に等しい。

     そこまでいかなくとも、希望者にローテーションで海外勤務を経験させる制度を設けて「君たちの活躍するフィールドは世界に広がっている」と話すなどすれば、MRは自分の仕事に夢を持てるようになりモチベーションも向上する。製薬会社の経営者や管理職は、「部下に能力がなければ取り替えればいい」とか「自分さえよければ部下はどうでもいい」などと考えず、人を育てる気持ちを持ってほしい。そして、部下に夢と希望を抱かせ、部下を育てる喜びを感じてほしい。

    ましてや、最近ではジェネリック品を数量ベースで80%にすると言う時代になり、長期収載品の薬価は大幅に引き下げられる時代になった。従って、新薬の出ないメーカーは淘汰される時代となったので、益々企業の合併・吸収は増加するであろう。自分の居た会社の名前が消える時代は益々激しくなるだろう。

     多くのMRが夢と希望を持てるような会社作りを、ぜひ実現してほしいと望むところである。

※本連載は、過去(2004年11月~2008年4月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものに、著者が一部加筆・修正したものを掲載しています。現在のMRの勤務内容に沿わない部分も含まれますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

Profile

小原公一(OBC研究所代表)

おはら こういち 氏。1965年法政大経済学部卒。複数の製薬会社で、学術企画部長、専務取締役営業本部長、CSOの執行役員などを歴任後、2003年OBC研究所を設立し、製薬企業の営業戦略策定などのコンサルテーションを手がけている。

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